2年ぶりに開花した地湧金蓮=奈良県葛城市寺口の浄願寺で、稲生陽撮影

 数百種類の花を栽培する「癒(い)やしの庭園」で知られる葛城市寺口の浄土宗・浄願寺が今秋から、老朽化した本堂や庫裏を庭園内に移転させる工事を始める。数年後の完成を目指しており、季節を問わず咲き乱れる花々に囲まれた華やかな寺院に生まれ変わる見通しだ。現在の形で草花を見られるのも、残りわずかな期間になりそうだ。【稲生陽】

 
 
 
地湧金蓮など珍しい花を見に見物客も多く訪れる=奈良県葛城市寺口の浄願寺で、稲生陽撮影

 約1ヘクタールの庭園内では現在、季節のアジサイのほか、国内でも珍しいバショウ科の多年草「地湧金蓮(ちゆうきんれん)」が黄金色の花をつけ、見物客の目を集める。本来は中国原産のバナナの仲間。花に見えるのは葉で、本当の花は中央近くの小さな白い部分だが、全体の形がハスの花に似ていることからこの名前が付いたという。広い園内にはこうした珍しい種類の花が多く植えられ、野ウサギなどの野生動物の姿もみられる。

 
 
庭園ではスイレンも開き始めた=奈良県葛城市寺口の浄願寺で、稲生陽撮影

 庭園は前住職の鷲尾隆継長老(78)が約20年かけて整備し、2009年に開園。多種多様な花を国内外から集めたといい、長老は「いつでも何らかの花が咲いているよう心がけた。例えば桜でも一般的なソメイヨシノだけでなく、開花時期の違う河津桜や寒緋桜など約500種を植えた」と説明する。

 
 
「修羅道」の暗いトンネル。周囲が見えず、何の願いも届かない様子を表現したという=奈良県葛城市寺口の浄願寺で、稲生陽撮影

 一方、庭園としては仏教思想の「六道輪廻(ろくどうりんね)(人が生前の行いによって転生するとされる六つの世界。現世の人間道に加え、天上道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道からなる)がテーマで、各界をイメージした急な階段やトンネル、橋などを周遊しながら、花に囲まれた思索の世界にふけることができる。鷲尾隆仁住職(50)は「死後の世界とされている六道だが、同じ感情は我々の日常の中にも少なからずある。それらを自覚し、毎日を安らかに過ごしてもらえれば」と説く。

 今回の大規模移転は、庭園ができる以前の約35年前からの計画だったという。子授けの寺として知られているが、当時は周辺の道路幅も狭く、今より訪れる人も少なかった。しかし、庭園が完成し、現在は県外から大型観光バスで訪れるツアー客も増え、年間数千人が訪れる観光寺院になったという。移転後の本堂や庫裏の跡地はバス駐車場にする計画で、利便性向上による入場者増を見込む。今回の移転工事で200種あるバラ園などは縮小も強いられるが、鷲尾住職は「寺周辺の道路拡幅など、完成まで40年もかけた大改修。地域活性化にもなるはずなので、温かく見守ってほしい」と理解を求める。


 
 
浄願寺(奈良県葛城市寺口)

浄願寺

 葛城市寺口1170。奈良時代の開創と伝わる浄願寺の本尊は阿弥陀如来で、「子宝如来」として信仰されている。庭園は午前9時~午後4時、入山料は大人500円、18歳以下300円。問い合わせは同寺(0745・69・5601)。